仙台高等裁判所 昭和25年(ラ)22号 決定
一、原決定は、債務者及びその雇人の生活を考慮するに急であつて、債権者の生活を考慮しない不当、不法のものである。
二、競売は普通差押より二週間後であるから医療器具が差押により直ちに使用不可能となることはなく、原決定のごとく瀕死の重患者を擁し拱手傍観する必要なく競売までに適当な処置を講じ得られる。また近時医師は何処でも開業しているから一医院が閉鎖されたとしても、患者が治療に困難をきたすことはない。
三、原決定は、差押債務者がその所有の医療機械器具類の差押を免れる目的で該物件を医師に貸与引渡した場合には、民事訴訟法第二百一条第一項、第四百九十七条の二の規定により、債務者所有賃借人占有(その占有が最終事実審の口頭弁論終結後または和解調書、調停調書、認諾調書作成後の承継に係ることを要する)物件につき、当然強制執行をすることができるものと解せられるから、右のような弊害はない、と判示しているが、医療機械器具を口頭弁論終結前に貸与した場合を何等考慮していない不当がある。
四、原決定は、「敷地については他に特段の事情がない限り民事訴訟法第五百七十条第一項第五号により、その執行を免脱させるを相当とする場合を差当り想像することができない」と判示している。然し敷地建物が競売となれば、入院患者は他所に移らなければならない。法律はかかる結果は已むを得ないものとしているので民事訴訟法第五百七十条第一項第五号は医師が債務者である場合その最少限度の生活を保護せんとするもので、これを拡張解釈するにおいては、前述のごとく不当な結果を招来するに至るべく、原決定はこの点においても不当である。
というにある。
よつて按ずるに、民事訴訟法第五百七十条第一項第五号に、医師その他同号掲記の職業に従事する者の、その職業を執行するため欠くべからざる物並に身分相当の衣服はこれを差押うることを得ない旨規定したのは、これ等の職業に従事している者の仕事は公共の福祉に影響するところ大であるから、たとえその債務のため強制執行を受ける場合にも継続してその職業の執行に従事せしめることが社会政策上必要であるとの見地に出たものと解すべきである。従つてここにいう医師とは、現に診療に従事している者を指称するのであつて、本件債務者のように自らは診療に従事することなく医師を雇入れて診療に従事せしめている所謂病院経営者のごときは同条の医師に該当しないし、また同条を類推適用すべきものでないと解するを相当とする。右と反対の見解に立つ原決定は取消を免れない。しかし一件記録によれば、債務者棟方清美が今なお医療機械器具を所有しているか、何うか疑いなきを得ないから、この点につきなお審理の要があるので、本件を原審に差戻すべきものとする。
よつて本件抗告は、他の抗告理由について判断するまでもなく理由があるから、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 谷本仙一郎 猪瀬一郎 石井義彦)